異色の社労士、労働問題を科学する<第4回>

前回から引き続き【信用】の重要性を論じていきたいと思いますが、 その前に、 いよいよ、 栃木県における最低賃金が1000円を超すことについて取り上げたいと思います。 10月 1 日から適用されるようですので注意が必要です。何度も申し上げておりますが、 賃上げは戦略的に行うべきです。業務改善助成金の申請を念頭に入れながら賃上げを行えば、 労使ともにメリットがあります。この原稿が掲載されるときでは、 10月中の最低賃金に合わせた賃上げを、 敢えて 9月中に行うことで業務改善助成金を申請するという積極的賃上げは間に合わないかもしれませんが、 最低賃金を継続的に上昇させていく傾向は来年度以降も続くものと予想しています。もし9月中申請に間に合わなかった事業主さんがおりましたら、 来年度以降にこの経験を活かしていただければと思います。 尚、 10月に賃上げしたうえで、 さらに 賃上げすることで本年度中に業務改善助成金を申請することは可能です。今年度申請しても、 来年度に改めて申請することが可能ですのでご検討ください。業務改善助成金が申請出来るのは、 1 事業所当たり1年度に1回までです。

・・・・・・・・ 前回 (7 /25号) からの続き・・・・・・・・・

『帳簿をきれいに保つ重要性』

3年間の積み上げ期間を経て店舗展開を始めた矢先に、 新型コロナウイルス感染の問題が勃発し、 調剤薬局では大きく売り上げを減らす事態に陥りました。コロナ禍初期には、 家から出ないことが徹底され、 ちょっとした体の異変では感染リスクのあるクリニックに通院しないようになり、 大きく患者数を減らしていました。また、 マスクの使用が徹底されていたために、 風邪やインフルエンザが流行せず、冬の風物詩でもあった 時的な患者増も起きなくなっていました。当然、 事業計画は大きく下振れを起こし、 人件費の増額分が重くのしかかり、 債務超過の状態になりました。その時の、 メインバンク担当者の曇った顔が忘れられません。中小企業倒産防止共済を満額納めていて、 その分を加味すれば特に問題ない程度の債務超過であっても、【信用】を落とすことに繋がるのだと感じた瞬間でした。あのとき中 小企業倒産防止共済を解約してでも、 債務超過を避けるべきだったのではないかと思っています。次年度以降は、 多少の下振れリスクが生じても債務超過に陥らないように、 利益剰余金を積み増すことで帳簿をきれいに保つように心がけています。事業の発展には、 節税より【信用】が重要です。

『帳簿をきれいに見せる注意点』

思いがけない下振れが生じることは、 当然あります。そのようなとき、 当期の赤字は避けられないとしても、 出来る限り債務超過に陥らないようにしなければなりません。そのためにも上記のような純資産を積み増しておくということは非常に重要です。逆にそのような対策が帳簿上出来ていれば、 そこに【信用】が付加され、資金繰りなどが容易になると思います。その他で私が帳簿上特に注意しているのは下記の 2 点です。

1. 固定資産に潜むリスクを過小評価しないこと

基本的に固定資産は先行投資になっていると思います。固定資産が、突然利益を生まなくなるリスク を考慮しておかなくてはいけません。例えば、 調剤薬局の最大のリスクに、 近隣の医療機関の廃院ということがあります。廃院する可能性を予見することはなかなか難しいものがありますので、固定資産の先行投資分を回収出来るまでの期間はある程度計算しておかなくてはいけません。私の場合、 3 年以内に回収見込みのない案件には手を出さないことにしています。先行投資した固定資産について損益計算書上で損金算入されるのは、減価償却分と借入利息分だけなので、費用としてのインパクトは人件費ほどではないと思いますが、 市場のニ ーズが変わったり、発注元が突然廃業したりするなどのリスクは常に念頭に置いて、過小評価しないことが重要です。

2.減価償却と借入返済のスピード差

利益は出ているはずなのに、現金が心もとないという経験がある方は良くお分かりかと思いますが、借入返済額から減価償却費を引いた金額を超える利益が出ていないと、徐々に現金が減ってきます。借り換えなどの処置が必要にもなりますので注意が必要です。利益に余裕がない場合には、リースにする ことで帳簿がすっきりすると思います。私は、逆にリースをどんどん止めていっています。業務改善助成金を最大限利用することで、購入した機器が増えていっています。そのようにすると、 月々の支払いが漸減しますので現金が残りやすい体質になります。また、 得られた助成金額を圧縮記帳することで、無駄な税金を払う必要もありません。

『人材を定着させるための工夫』

人材の採用に関して、労働者にとって魅力ある企業にすることも必要ですが、実績に基づいた【信用】の積み重ねが重要であることは先に述べました。私のところでも、最初は70歳前後の薬剤師 3 名がシフトを埋めてくれていました。地道な経営を続けることで、徐々に若い人材が集まりだし、 今では30歳前後の薬剤師 4 名が主力で働いてくれており、私もこのような副業に全力で取り組めています。では、入社してくれた人材を定着させるためには、どのようなことが必要でしょうか。私が気を付けている点を書きだしたいと思います。

1.快適な人事システムを構築する。

《スマートワークスタイル》という社会保険労務士事務所の名称こそ、私の理念を表現しています。多様な働き方を推進することは非常に重要ですが、現時点ではなかなか理解してくれる事業主さんはいません。特に抵抗を受けるのは、「働き方を変えることを従業員が嫌がるはず」という思い込みです。次回以降、多様な働き方が労使双方にとって好影響をもたらす可能性について説明していきますが、例として、私たちの社会保険労務士事務所では、既に正社員の週所定労働時間を32時間にしています。 1 日の労働時間を 6 時間にして 5 日間働いても、 8 時間にして 4 日間働いてもどちらでも構いません。要はスケジュール管理を個々に出来れば良いというスタイルです。変形労働制の導入で容易に出来ます。このような雇用の仕方が従業員のニーズに合っていることは、 求人のしやすさからも実感しています。

2.個別の配慮を注意深く行う。

常に一定のペースを守った働き方が良い人もいますが、ライフステージによって、離床的な働き方が刻々と変化する人もいます。 このような変化を個別の面談などを行うことで聴取をしておき、 希望を満たしてあげられるように考慮します。 部署転換が必要な場合もあります。 そのようなときには事前に必要な能力を提示して、 その時までにしつかり習得出来るように会社として補助します。 会社本位の異動を繰り返すと従業員は定着しません。 個々のニ ーズを把握したうえで、 働き方を変化させていくことが求められる時代だと思います。

3.賃金体系を出来る阪り公平にする。

従業員個々の能力に大きな違いがあるのに、 賃金は変わらない、 または在職年数によって、 むしろ生産性の低い従業員に多くの給与を払っている状態をよく見かけます。 これは人事評価を賃金体系に組み入れていないことから生じます。 人事評価制度などという大層なものを作成しなくても、 事業主なら常日頃、 個々の能力を客観的に判断していると思います。 それを賃金に反映する方法を持っておくべきだと考えます。 私は、 3つの指標で賃金を決定しています。
一つ目は《時給》
二つ目は《労働時間》
三つ目は《業務の難易度》
です。
これも調剤薬局の例ですが、 総務・経理・薬事など調剤薬局に拘わらない事務を 手に行ってくれる
従業員がいます。 当人の希望により勤務時間は月に50時間ですが、 全ての業務をその時間内に遂行して
くれます。事業の拡大と共に業務量は増えていますが、変わらず労働時間内に終わらせてくれますので、
この従業員の腔給は、 4年間で1.5倍以上になりました。
また、 同じ時期に入社した二人の事務員では、 その能力に応じて労働時間(シフトに入ってもらう時間)に差を付けています。 生産性の高い従業員の総支給額を増やす方法の一つです。
業務の難易度という指標についてですが、 能力は時給に連動していると思われがちですが実際には違
います。 能力に大きな違いがあっても、 同程度の難易度の仕事をしていれば時給は同じにならなくてはなりません。 成果が同じになるからです。 そこで、 能力を公平に評価するために就ける業務に差をつける必要があります。 例えば、 職位や職務で業務の難易度や責任の重さを変えるのが一般的ですが、 メイン受付・サブ受付を定義して業務の難易度を細かく設定することも出来ます。 賃金の公平ですが、 メイ
ン受付・サブ受付を定義して業務の難易度を細かく設定することも出来ます。 賃金の公平性を保つことは容易ではありませんが、私は常日頃から上記のように心配りをしています。

4.約束は守る

当たり前のことですが重要です。 従業員は、 何気なく話した内容でも忘れていないものです。【信用】を失うのは得るよりもずっと容易なことです。 私は、昇給の約束を反故にされ、 1カ月後に辞表を出した経験があります。 おそらく、 その時の昇給分を全て紹介料につぎ込んでも、私に代わる人材を獲得できていないと思います。その会社は惜しいことをしたものです。

『まとめ』

長々と私の私見を書き連ねましたが、社会保険労務士として新しいクライアントに話す内容はおおよそこんな感じです。実体験を元にそれを言語化させていますので、言い過ぎの部分や足りない部分、見当違いのところもあろうかと思いますが、この歳になるまで多くの失敗や成功を体験してきました。少しでも皆様の事業の発展に寄与出来れば幸いです。

〈著者プロフィール〉
オフィス スマートワークスタイル 代表 社会保険労務士 下田 明範

[略歴]
<1974年>
 3月27日生(50歳) 埼玉県上福岡市(現ふじみの市)出身
<1997年>
 東京理科大学薬学部卒業 薬剤師免許取得
 同年から17年間武田薬品工業(株)のMRとして大学・大病院を担当
<2016年>
 栃木市にそらいろ調剤薬局を開業(2024年4月現在栃木市3店舗・小山市1店舗)
<2022年>
 オフィス スマートワークスタイルを開業 (2024年4月現在社労士4名・事務員2名在籍)
<2023年>
 栃木県社会保険労務士会 理事就任
<2024年>
 社会福祉士通信課程(一般)に入学
 年金マスターとして週1回年金事務所に勤務障害者雇用管理サポーター登録

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