異色の社労士、労働問題を科学する<第6回>

知っておいて欲しい労働基準法①

今回は、事業主の方にとって特に重要だと思われる労働基準法の豆知識を、順不同で列挙していきた いと思います。 それらは、 私が雇用管理システムを構築する上で常に念頭に入れている項目です。 クラ イアントからは 「初めて聞いた一」と驚かれることが多いので、是非とも頭に入れておいて欲しいと思 います。

初寄稿となる今回は、私の経歴や現状について紹介させていただきながら、私の考え方のバックグランドに何があるのか感じ取ってもらえればと思っております。また、次回以降のテーマについても予告したいと思います。

『人材の見極めは入社後2週間が勝負』

第 5回で触れた解雇規制の問題ですが、やはり大きな反響がありましたね。 人材の流動性を高めるために、解雇規制を見直すという主張は、非常に分かりにくいですし、そもそも関連があるのかどうかも疑わしいと思っています。 ただ、事業主にとって、解雇し難いという現状があり、ときに困難な状況を引き起こしているのは間違いありません。そこで、私はクライアントにタイトルの内容をお伝えします。どういうことかと申しますと、 試みの使用期間中のものであれば14日間は解雇予告の適用が除外され る、 つまり即日解雇出来ることを意味します。 逆に、 試用期間中であっても、入社後15日目からは解雇 制限がかかるということです。 因みに、この14日間は、働いた日数が14日ではありません。 文字通り入 社後14日間なので、新たに雇い入れた労働者の能力の見極めを、2週間必死に行ってほしいと思います。時間を守れない ・ さぼり癖がある ・ 対人関係を良好に保てないなど、職場にとって好ましくない性格や、能力的にその職種に向いていないということを判断するには、ギリギリの時間かもしれませんが、「2週 間が勝負!!」ということを肝に銘じて頂ければと思います。

『有給休暇のトラブルを避ける方法』

「急に辞める社員がいて大変だ」という話はよく聞きます。退職する2カ月前には会社に通告するよう に規定されていても、「2カ月前に通知しました。明日から有休消化させて頂きますので、 引継ぎは出勤 する数日でお願いします」という方がいるのも事実です。 普段は労働者の代わりなんて幾らでもいると思っていても、いざ退職者が出ると大騒ぎになるものです。 そもそも、人ひとりいなくなったら業務に 支障が出るのは当然です。 もしそうならなかったら、それこそ無駄な人件費を払い続けていた証拠なので、早急に雇用管理システムを見直す必要があります。 本題に話を戻しますが、以下に有給休暇につい て必要な知識を列挙します。

①有給休暇は雇用形態に拘わらず、全労働日の8割以上出勤した労働者に与えなければならない。
※ ここでいう全労働日とは、 その労働者が働くべき日のことであり、その事業場が稼働している日数のことではない
※ パート労働者など、 勤務日数が少ない者であっても、 比例付与により有給休暇を与えなくてはならない

②有給休暇は自由に取得させなければならない。 ただし、 事業の正常な運営を妨げる場合においては、 取得する時季を変更出来る。
退職日を超えての時季変更は認められないため、 業務に支障が出たとしても有休消化を止められない

③有給休暇が10日以上生じる労働者に対して、 5日の有給休暇を取得させなければならない。
※有休消化促進のための新しい規定であるが、 違反すると30万円以下の罰金に処せられる

④有給休暇の時効は行使できるとき(付与されたとき)から2年である。
※一日も有給休暇を使うことなく翌年に持ち越した場合、 40日まで貯まってしまうことになる

以上のことを勘案すると、 退職時の有給休暇トラブルを避ける唯一の方法は、普段から計画的に有給休暇を取得してもらうことです。

さて、 ここからは私見ですので、 大いに異論はあろうかと思いますが、 参考までに聞いてください。まず、 私は有給休暇を報酬の一部だと考えています。 勤続年数を重ねるごとに有給休暇の日数は増えていきますし、 昇給することで有給休暇の 1 日の価値も上がっていきます。 例えば、 時給換算で1500円の労働者が1日有給休暇を取ると
1500(円) x 8 (時間) = 1 万2000(円)と計算できるので、 1 万2000円の報酬を受け取っているのと同じ価値があります。 6年半以降は20日の有給休暇が与えられるので、 これを 1 年で使い切ると
1 万2000(円) x20(日) = 24万(円)の報酬を受け取ったのと同価値です。
中間管理職などになるとかえって有給休暇が取りにくいということがあります。 確かに、 業務の中心 的な存在が現場にいない日があると、 全体的に業務が滞る感じがありますので、 率先して有給休暇を取れる雰囲気はありません。 仮に管理職になって時給換算で2500円の給与をもらっていた人が、 年間で有給休暇を5日しか取れなかった場合、 上記と同様の計算式から
2500(円)X 8 (時間)X 5(日)= 10万(円)の報酬しか受け取れないことになります。如何でしょ う。 逆に不平等感はありませんか?
事業主側から見ると、「管理職は基本給も高いし、 ボー ナスも多いのだから、有給休暇まで沢山とるな
んて贅沢だ」と思われるかもしれませんが、上記のように数値化してみると、「管理職だから有給休暇が取りにくい」はちょっとマズいなという感じになりますよね。そもそも有給休暇の取得はデリケ ートで、平等にすることが非常に難しいことから、労働者間でよく揉めている事案の一つだと思います。ただし、自由取得の原理に従って労働者任せにしていると、 上記の問題は解決しません。

『私の解決方法』

ずばり、全社員 毎年 有給休暇取得率を100%にしています。デメリットはおわかりの通り、人件費がかかることと人手が足らなくなることの二つです。 あとは、 事業主の心の持ちようです。
では、 メリットについて解説します。

①平等に有給休暇を与えることが出来る。
②退職時の有休消化のリスクがなくなる。
③計画的に休みを取るようになり、 仕事にもメリハリがつく。労働者間の連携が生まれる。
④退職者が出にくくなる。
⑤人材募集のアピー ルポイントになる。

さて、全員が毎年100%有給休暇を使えていたら、責任ある人が有給休暇を取りにくくなるということもなくなり、誰か一人が突出して有給休暇を取るということも起きません。まさに究極の解決方法です。しかも、 有給休暇が貯まりませんので、 退職時のリスクも回避できます。 長期連休を作りやすいので、計画的に取得するようになり、 ワ ークライフバランスを保ちやすくなります。 連休中は仕事を任せることが多くなりますので、労働者間でお互いの業務を理解するようになります。 このような環境を整えれば、 退職者が少なくなることは容易に想像できるでしょう。 勿論、 採用活動でもアピー ル出来ます。
如何でしょうか。これだけの効果があれば、デメリットを承知で有給休暇100%を目指す気になりませんか?

改めて、 デメリットについても考えてみたいと思います。

①人件費がかかること
②人手が足らなくなること

休みが多くなれば、 当然に人手が足らなくなります。 そのために人を雇えば、 人件費が嵩むということで、 これらは一体となった問題です。 逆に考えると、 人件費をかければ人手は足らなくなりません。人手が足りない状態のままであれば、余計な人件費はかからないということです。事業を健全に保つためにどちらを選ぶべきか言うまでもないと思います。有給休暇の問題は、単純化すると人件費(=費用)の問題ということになります。つまり、前述のメリットを得るために費用をかけるか否かということです。

ここでもう2つメリットを追加します。

⑦急な退職や休業に対処しやすくなる。
⑧多様な働き方の人材を採用しやすくなる。

有給休暇のために少し多めに労働者を採用していると、 急な欠員が出来ても当面問題になりません。次の人が見つかるまでの間、 有給休暇を取得してもらわなければ良いのです。 因みに、 少し多めになる労働者は正規社員である必要もありません。全員が、 有給休暇を取りやすくなる分だけの代替で働いてもらえば良いのです。 例えば、 労働者が 5 人いる事業所で、 平均15日の有給休暇を 1 年間で取得させる場合に、 代替の必要な日数(月当たり)は、

5 (人)X 15 (日)-:- 12 (月)=6.25日
つまり、週に 2 日位出勤してくれる労働者を探せば、全員に有休休暇を100%行き渡らせることが出来ます。 柔軟に労働時間を設定しておくと、 予想外に有能な人材が採用出来ることがあります。 多様な働 き方が出来る人事制度を整えておくことは、 人手不足の時代を悠々と乗り切るための必須の手段になるでしょう。

『まとめ』

今回は、 解雇と有給休暇について、 労働基準法上の取り扱いに私見を交えて解説いたしました。 現場では解雇の前に採用の問題があり、 よく相談を受けます。 私が採用時に特に気を付けているのは、履􀀛 書の整合性です。 転職履歴のある方には、 辞めることになった経緯を必ずお聞きします。 人それぞれ色々な理由がありますが、 辞めることになった不幸な事件が2~3年ごとに必ず起きることを偶然だと は考えていません。 そういった場合には、 応募者がどんなに素晴らしいことを言っていたとしても、 採用することはまずありません。 逆に転職理由とその人の歩んでいる道の整合性が取れていれば、転職履 歴が何度あっても採用します。焦って人材採用をすると、あとで数倍大変な思いをすることがあるので、冷静に履歴書を見てください。そのうえで、前述いたしました2週間の見極めを真剣に行ってください。
トラブルを未然に防ぐ最良の方法です。
休みに関しては、 ますます重要性が増しています。 単純に休みが取れるということではなく、 取りた いときに休みが取れる体制を構築することが重要です。 非常に優秀な人材が比較的低賃金で働いている職場で、 その労働者が「待遇が良くない」と愚痴をこぼすので、「なぜそこで働いているのですか?」と尋ねると、「急な休みが取りやすいから」とのことでした。人材を採用しやすくするための取り組みとして一考の価値があると思います。
本稿が、少しでも皆様の事業の発展に寄与出来れば幸いです。

〈著者プロフィール〉
オフィス スマートワークスタイル 代表 社会保険労務士 下田 明範

[略歴]
<1974年>
 3月27日生(50歳) 埼玉県上福岡市(現ふじみの市)出身
<1997年>
 東京理科大学薬学部卒業 薬剤師免許取得
 同年から17年間武田薬品工業(株)のMRとして大学・大病院を担当
<2016年>
 栃木市にそらいろ調剤薬局を開業(2024年4月現在栃木市3店舗・小山市1店舗)
<2022年>
 オフィス スマートワークスタイルを開業 (2024年4月現在社労士4名・事務員2名在籍)
<2023年>
 栃木県社会保険労務士会 理事就任
<2024年>
 社会福祉士通信課程(一般)に入学
 年金マスターとして週1回年金事務所に勤務障害者雇用管理サポーター登録

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